障がい福祉サービスの減算【その⑦】「虐待防止措置未実施減算」

2022年度から義務化されていた「障害者虐待防止措置」ですが、2年間の経過措置を経て、2024(令和6)年度からは、対策を怠った事業所に対して「虐待防止措置未実施減算」という直接的なペナルティが科されることになりました。

「うちはアットホームだから大丈夫」という主観的な安心は行政には一切通用しません。今回は、この新しい減算の厳格な要件と実務上の注意点を解説します。


1. なぜ今、ここまで厳しく求められるのか?(直近の背景)

近年、福祉事業所における職員から利用者への暴言や、不適切な身体拘束といったニュースが後を絶ちません。直近でも、対策やトラブルを放置していた事業所が、自治体から一発で「指定取消」や「業務停止」の重い処分を下される事例が全国で相次いでいます。

行政の目はこれまで以上に厳しくなっています。単に「虐待を起こさない」だけでなく、「組織として虐待を防ぐシステム(仕組み)を回しているか」が厳しくチェックされる時代になったのです。


2. 減算のインパクトと「期間」のペナルティ

要件を満たしていないと判断された場合、利用者全員分の基本報酬が「1%」減算されます。

「1%なら軽微だ」と感じるかもしれませんが、その認識は極めて危険です。

減算の期間は「改善が認められるまで」続く

この減算は、不備が発覚した不適合月の「翌月」から適用されます。さらに、指摘された後に慌てて改善計画を提出し、自治体から「たしかに改善されました」と正式に認められる月まで、延々とカットが継続します。自治体の確認には数ヶ月かかることも多く、地味に、しかし確実に売上を削り続ける経営リスクをはらんでいます。


3. 減算を回避するための「3つの必須要件」

減算を完全に防ぐためには、以下の3つの措置がすべて適切に行われている必要があります。

① 虐待防止委員会の定期開催と周知

  • 開催頻度: 「1年度に1回」ではなく、厳格に「直近1年以内に1回以上」のペースで開催することを強く推奨します。

  • 運用の工夫: 「法人単位」での開催や、WEB会議(Zoom等)の活用、身体拘束適正化検討委員会との一体運営も認められています。

  • 【重要】 委員会の議事録や対応状況の記録は、「5年間の保存」が義務付けられています。

💡 プラスαのポイント(努力義務) 必須ではありませんが、委員会の客観性を高めるために、将来的に「利用者やその家族、外部の第三者」をメンバーに巻き込むよう努めることとされています。

② 職員に対する定期的な「研修」の実施

  • パート・アルバイトを含む全従業員を対象とした研修を、こちらも直近1年以内に1回以上実施し、資料や受講者名簿などの「実績の証拠」を残す必要があります。

③ 適切な「担当者(責任者)」の配置

  • 委員会や研修を機能させるため、サビ管や児発管などを「虐待防止責任者」として配置する必要があります。


4. 委員会の本当の役割:形だけの場にしない

委員会が担うべき役割は、単なる現状報告ではなく、以下の3つのサイクルを回すことです。

  • 計画づくり: 研修の実施計画や、職員の労働環境の改善、指針の作成。

  • チェックとモニタリング: 虐待が起こりやすい職場環境になっていないか、日々の支援に不適切な関わりがないかの検証。

  • 発生後の検証と再発防止: 万が一、疑いが生じた場合は即座に検証し、具体的な再発防止策を実行する。


5. まとめ:指導に従わない場合は「指定取消」も

実地指導などでこれらの不備を指摘され、改善指導に従わなかった場合、特別な事情がない限り「指定の取り消し(事業所の消滅)」が検討されます。実地指導の通知が届いてから、過去に遡って架空の議事録を作るような行為は虚偽報告となり一発アウトです。

「形だけの書類」を用意するのではなく、日頃からスタッフ間で不適切なケアについて話し合える環境ができているか。その仕組みづくりこそが、結果として事業所を守る最大の防壁になります。

まずは直近1年以内に正しい手順で委員会や研修が行われ、その「証拠(記録)」が手元にあるか、今すぐファイリングを確認してみてください。リスクを未然に防ぎ、誰もが安心して過ごせる事業所をつくっていきましょう。

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