先日、福祉新聞にて「引きこもり当事者の平均年齢が36.9歳に上昇し、60代の子を90代の親が支えるケースもある」という調査結果が報じられました。
いわゆる「8050問題」「9060問題」は、もはや一部の家庭だけの話ではありません。
「私たちが元気なうちは何とかなる。でも、自分たちがいなくなったあと、この子は大丈夫だろうか……」
そんな不安を抱える親御様は少なくありません。
親亡きあとの支援策として知られる制度のひとつに、「日常生活自立支援事業」があります。
「障害者手帳がなくても使える制度」と紹介されることもありますが、実際には利用するためにいくつかの条件があり、「親が元気なうちは利用につながりにくい」という実務上の現実もあります。
今回は制度の利用条件と、その現実を踏まえて「親御様が元気な今からできる準備」について、分かりやすくお話しします。
1. 日常生活自立支援事業とは?
日常生活自立支援事業は、地域の社会福祉協議会などが中心となり、日常生活の手続きやお金の管理をサポートする公的な制度です。
具体的には、次のような支援を受けることができます。
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福祉サービス利用の手続き支援(窓口への同行や申請代行)
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公共料金の支払い支援(電気・ガス・水道などの確実な決済)
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年金や福祉手当の受け取り確認
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役所からの通知確認(重要な書類の引き出し・確認)
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通帳や印鑑の預かり(銀行の貸金庫等での安全な保管)
💡 成年後見制度との違い
「成年後見制度を利用するほど判断能力は低下していないけれど、一人で手続きをするのは不安」という方にとって、その間を埋める非常に使いやすい制度として位置づけられています。
2. 利用には「3つの条件」があります
この制度は、病気の診断名や障害者手帳の有無は必須ではありません。しかし、実際にサポートを開始するためには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
① 本人に「利用意思」と「契約能力」があること
この制度は、本人と社会福祉協議会との「契約」によって利用が始まります。
そのため、本人に「支援を受けたい」という意思があり、契約内容をある程度理解できる判断能力が必要です。本人が完全に面談を拒否しているような状況では、利用開始が難しいケースもあります。
② 現実に「生活上の困りごと」があること
単に「将来が心配」というだけでは利用できず、
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銀行の手続きが一人ではできない
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重要な書類の管理が難しい
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毎月の支払い管理に不安がある
など、現在の生活上で具体的な困りごと(支障)が生じていることが求められます。
③ 身近な支援者がいない、または支援が難しい状況であること
ここが実務上、最も大切なポイントです。
地域によって多少の運用差はありますが、ご両親が健在で、日常的にお子様を支援できる環境にあるうちは、「まずは家族による支援を優先」という考え方が取られるケースが少なくありません。
そのため、この制度は実質的に「親亡きあと」のセーフティネットとしてイメージされることが多いのが現状です。
3. 利用にかかる費用はどれくらい?
利用料は自治体(社会福祉協議会)によって異なりますが、おおむね次の表のようなイメージです。
| サービス内容 | 費用の目安 | 備考 |
| 相談・支援計画の作成 | 無料 | 契約に至るまでの相談は一切無料です |
| 金銭管理や同行支援 | 1回 1,200円〜1,500円程度 | 月1〜2回なら、月額2,000円〜3,000円程度 |
| 通帳・印鑑の保管 | 年間 3,000円程度 | 貸金庫等で安全に管理されます |
| 生活保護受給世帯 | 無料 | 免除制度が用意されています |
専門職後見人に依頼する場合(月額2万円〜)と比較すると、使った分だけの精算となるため、本人の将来の財産を大きく圧迫しない優しい費用設定になっています。
4. 「今は使えない」なら、今できることは?
「親が元気なうちは利用できないなら、今考えても意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。むしろ、親御様が元気な今だからこそ準備できることがあります。
① 社会福祉協議会へ早めに相談しておく
今すぐの契約は難しくても、「将来は利用につなげたい」という事前相談は可能です。地域の支援者とあらかじめ顔をつなぎ、本人が少しずつ外部の人と関わる練習をしておくことで、将来親御様に万が一のことがあった際の負担が大きく変わります。親から地域の支援者への、大切な「バトンタッチの準備」です。
② 遺言書で兄弟間のトラブルを防ぐ
引きこもりのお子様にご兄弟がいる場合、遺言書の作成は非常に重要です。
親御様としては、「心配だから、この子に少し多めに財産を残したい」と考えるのは自然なことです。しかし、その想いを法的な形(遺言書)にしないまま相続が起きると、残されたご兄弟の間で「なぜ自分だけ負担が増えるのか」「あの子ばかり優遇されている」といった感情の行き違いが起こることがあります。
遺言書を作成しておくことで、以下の備えが可能になります。
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住み慣れた「家」を確実に残す
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本人のこれからの「生活費」を確保する
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親亡きあと、誰がどのように本人の窓口や手続きを支えるかを整理する
さらに、遺言書の中に「付言事項(ふげんじこう)」として、なぜこのような分け方にしたのかという親御様の本当の想いを書き添えることで、ご兄弟の納得感に繋がり、親亡きあとの孤立を防ぐことができます。遺言書は法律だけでなく、「家族の気持ち」を整える役割もあるのです。
5. 家族だけで抱え込まないために
日常生活自立支援事業は、親亡きあとに社会とのつながりを支える大切な制度です。そして、その制度をお子様が将来スムーズに活かせるようにするための環境づくりこそが、親御様が元気なうちに行う「生前対策」です。
「福祉制度」と「法律」。
どちらか一つではなく、両方を組み合わせることで、お子様の暮らしを支える土台はぐっと強くなります。
「うちの場合は、何から始めればいいんだろう?」
そう感じられたときは、一人で抱え込まず、まずは専門家へお気軽にご相談ください。今できる小さな一歩が、将来の大きな安心へとつながっていきます。

