障がいのある子の親が、遺言書に「執行者」と「付言」を書くべき理由

障がいのある我が子のために遺言書を書こう」

そう思って調べると、多くの記事にはこう書かれています。 「遺言書を書く理由は、子どもたちが相続で揉めないようにするため」

もちろん、それも大切です。 ただ、相続の現場に携わっていると、少し違う景色も見えてきます。

実際には、親が良かれと思って作った遺言書が、かえって家族の感情の行き違いを生んでしまうケースもあります。 それでも私は、障がいのあるお子さんがいるご家庭こそ、遺言書を準備する意味はとても大きいと思っています。

理由は、「揉めないため」ではなく、家族が必ず向き合う大きな負担を減らせるからです。 その負担の名前が「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」です。

1. 相続人に障がいのある方がいると、何が大変なのか

遺言書がない場合、相続人全員で、 「誰が、どの財産を、どれだけ受け取るか」 を話し合う必要があります。これが「遺産分割協議」です。

ただ、この手続きには厳しいルールがあります。

  • 相続人全員が参加すること

  • 全員の合意が必要なこと

  • 書類への押印や必要書類の準備を行うこと

ここで、知的障がいや精神障がいのあるお子さんがいるご家庭にとって、非常に大きな問題になることがあります。

例えば、相続人のお子さんに知的障がいや精神障がいがあり、難しい内容の理解や「自分の意思」で意思表示をすることが難しい場合です。法律上、本人が内容を理解して納得していなければ、この話し合いは成立しません。

状況によっては、そのままでは手続きを進められず、成年後見制度など別の仕組み(成年後見人の選任など)が必要になることもあります。 そして、この手続きの存在自体が、残されたご家族にとって大きな精神的・時間的負担になってしまうのです。

2. 遺言書があると、「話し合い」を丸ごと減らせる

ここで遺言書が真価を発揮します。 例えば親が生前に、 「長男には自宅を」 「長女には預貯金を」 というように財産の分け方を決めておけば、その内容に沿って直接手続きを進められます。

もちろん状況によって例外はありますが、一番の山場である「遺産分割協議」を行う必要がなくなるケースが非常に多くあります。

つまり遺言書は、 「家族が揉めない魔法」 ではなく、 「残された家族の手続きの負担を極限まで軽くするための準備」 として考えた方が、実態に近いかもしれません。

知的・精神障がいのあるお子さんを、難しい話し合いの場に参加させたり、実印や書類の提出を求めたりしなくて済む可能性が高くなる。これは親が先回りして用意できる、本当に大きなメリットの一つです。

3. 「遺言執行者」を決めておくと、さらに安心

さらに大切なのが、遺言書の中で「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」を決めておくことです。 遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実現(手続き)する人のことです。

例えば、 「長男」 あるいは 「行政書士などの専門家」 を遺言執行者に指定しておけば、その方が中心となってすべての手続きを進めることができます。

執行者がいれば、銀行の手続きや不動産の名義変更などを執行者一人で進められる場面が格好増えるため、家族全員で動く負担を劇的に減らすことができます。

特に、知的・精神障がいのあるお子さんがいるご家庭では、「親なき後、誰が実務を動かすのか」を事前に決めておくことは極めて大切です。

4. 「付言(ふげん)」は、親から家族への最後のメッセージ

ただし、遺言書を遺すときには一つ注意点があります。 例えば、障がいのあるお子さんの将来が心配で、その子に多く財産を遺した場合。 他のきょうだいが、 「どうして自分だけ少ないんだろう……」 と、心のどこかで寂しさや不満を感じることがあるかもしれません。

そんな時に、家族の絆を守るために大切なのが「付言(ふげん)」です。 付言とは、法律的な効力(命令)はありませんが、「なぜこの分け方にしたのか」という親の本当の想いや理由を自由に書けるメッセージ欄のようなものです。

例えば、こんな言葉を遺すことができます。

長男へ。 障がいのある長女のこれからの生活を考え、今回は長女に少し多めに財産を遺すことにしました。 決して愛情に差があるわけではありません。長男に将来、金銭的な負担を背負わせたくないという想いもあります。 これからも、時々妹のことを気にかけてもらえると嬉しいです。 今まで本当にありがとう。

法律の文章(数字の羅列)だけでは伝わらないものがあります。 でも、この「親の言葉」が1つ添えられているだけで、受け取る側のきょうだいの気持ちは大きく変わり、親の亡き後もみんなで協力し合える関係が続きます。

おわりに

知的障がいや精神障がいのあるお子さんがいるご家庭にとって、遺言書は「相続で揉めないための道具」というより、「残された子どもたちの手続きの負担を減らすための準備」なのかもしれません。

そして、その効果をより確実にするのが、

  • 遺言執行者(手続きのルートを作る)

  • 付言(家族の心を繋ぐ)

この2つです。

将来の家族のために今できることは、ただ財産をそのまま残すことだけではありません。 「手続きを少しでも軽くしてあげること」も、大切な親心、そして「親なき後対策」の重要な一歩だと思います。

「うちの場合は具体的にどう書けばいいんだろう?」と思われた方は、まずは一度お気軽にご相談ください。 ご家族の状況に合わせた、一番負担の少ない仕組みを一緒に作っていきましょう。

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